東京高等裁判所 昭和48年(く)157号 決定
被告人 早川美治
〔抄 録〕
そこで申立人に対する標記被告事件記録を調査してみると、同人は昭和四七年一二月二七日東京地方裁判所に公訴を提起され、翌二八日保釈により身柄を釈放され、数次の公判を経て、同四八年三月二日第四回公判にも出頭して適式に次回公判期日の指定を受け、出頭を命ぜられながら、同年三月一五日の第五回公判には裁判所にも弁護人にも全く連絡することなく出頭せず、その制限住居にも現在していなかったため、翌一六日保釈の指定条件に違反したものとして保釈を取消され、保証金六〇万円全額を没取されたものであることが認められる。右の事件はその後有罪判決言渡があって確定し、被告人はすべてにその刑期を服役し終っているので、申立人が右保釈取消処分自体の取消を求める利益はもはや存しないのであるが、それに伴なう保証金没取についての取消の利益はなおあるものと認められるので、本件申立の当否を判断することとする。申立人の主張するところは、当時所用により北海道に旅行し、第五回公判期日には帰京出廷する予定であったのに、国鉄の順法闘争と降雪により列車が遅れたため、間に合わなかったものであって、出廷できなかったのは自分の責任ではないから、保釈取消をした原決定を取消して貰いたいというものであり、右申立の証明資料として、国鉄当局からの書面二通(内一通は証明書添付)が提出されているのであるが、それは、昭和四八年三月一三日午前八時ころ旭川駅着発列車は雪害等のため遅れていたということ、および同年三月一四日ころ北海道地区において順法闘争のため列車のおくれが続いていたということを明らかにしているのみであって、具体的に特定の列車の遅延情況に関する記載がなく、従って、申立人がそのために、前記公判に出頭することができる筈のものが、その責に帰することのできない事情により、間に合わなくなったことを明確に示すものは存しないので、申立人の主張を立証するには十分でない。それに前記記録中の第六回公判における被告人の供述によると、同人は昭和四八年三月一一日に個人的理由で北海道へ行き、第五回公判当日である一五日に帰る予定であったというのであるが、前記保釈の指定条件の一として、三日以上の旅行をする場合は、あらかじめ裁判所の許可を得ることとされているのに、当時その許可を得た形跡はなく、従って、すでにその点においても申立人は保釈の指定条件に違背していたわけであるから、これらの事情を総合すれば、本件保釈の取消自体は相当であると認められる。しかしながら、右保釈の指定条件違反の点は動かし難いとしても、前記証明資料によれば、当時右雪害および順法闘争がなければ被告人は第五回公判期日に出頭することができ、同日の公判も何らの支障なく進行したかも知れない事情も窺われ、かような情況下で保証金六〇万円の全額を没取したことは申立人に対し、いささか酷であると認められるので、本件申立はその限りにおいて理由があるものといわなければならない。
(吉田 大平 粕谷)